#3 シン・オンシツヒョウカ(JSAE Spring Conference 2023, Yokohama / inter-noise 2023, Chiba)

Yokohama Institute of Acoustics
Yokohama Institute of Acoustics
2025年9月10日

2020年の終わり、世界がパンデミックで静止したかのような時間の中で、私は思いがけない道を選びました。人工知能の勉強です。きっかけは些細な遊び心――会社名「Yokohama Institute of Acoustics (YIA)」の頭文字を逆さにすると「AIY」、つまりAIになる。冗談のような発想が、やがて強い衝動となりました。

20年以上サウンドクオリティに取り組んできた私でしたが、心のどこかで「物語をひっくり返すことで道が開けるのかも」と感じていました。思い出したのは若い頃に夢中になったRPG 『ウィザードリィ』。シナリオ1では冒険者が魔術師ワードナを倒し、シナリオ4ではプレイヤーが逆にワードナとなって戦う。すべてのシナリオが逆転しているのです。私は同じように「逆シナリオのサウンドクオリティ評価」を始めたいと考えました。

また、子供の頃、読んだ本で「発明のヒント」というのがあり、その中でノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏の話がありました。ダイオードの精度を上げるのに、欧米の科学者たちは、物質の純度を上げることに腐心していました。彼は逆に、不純物を混ぜたらどうなるのか、つまり逆転の発想をしたわけです。そして、ある時、不純物により物質が安定することを発見します。というわけで、逆転の発想でございます。

私の答えはシンプルで大胆でした。「音を画像として認識するAI」――耳のための目。従来の調波分析にとらわれず、時間領域を可視化する再帰プロットに注目しました。2022年末には準備を整え、そして2023年、世界はChatGPTブームに沸き立ち、私はその追い風を背に発表の場へ立ちました。

自動車技術会で、私は2015年にした冗談を思い出しました。「次はサイコガンダムを準備しようと」。そのサイコガンダムは現実となっていました――名をAIと変えて。私はステップごとにAIの可能性を追いかけました。単純音・雑音の検出から始まり、最後にはフェラーリのエンジンサウンドが描き出す花のようなパターンへ。私は 「フェラーリ・フラワー」 と呼ぶことにしました。音響に潜む美を詩のように切り取ったかのような瞬間でした。

心理音響パラメータを使わない発表は初めてで、解き放たれたような気分でした。しかし、同時に、より深い確信も得ました。古典的手法とAIは融合してこそ力を発揮する――これこそが 「シン・オンシツヒョウカ・アウフヘーベン」なのです。その瞬間、私はまるで新しい惑星に降り立ったかのように感じました。それは“サウンドクオリティの惑星”。人工知能にとっての小さな一歩であり、私自身の人間的知性にとっては忘れられない大きな飛躍でした。

Yokohama Institute of Acoustics
サウンドデザイン人工知能学会・国際会議機械学習音質評価