ドライビングシミュレーターによるタイヤ音シミュレーション

Yokohama Institute of Acoustics
Yokohama Institute of Acoustics
2025年9月17日

・はじめに

近年のドライビングシミュレーターは、大規模な物理ベース計算(physics-based simulation)を実行できる水準に到達し、実車に近い挙動や音響現象を再現できるようになっている。自動車開発においては、プロトタイプ車両を製造せずに仮想空間上にモデルを構築する「試作レス開発」が進展しており、開発期間短縮とコスト削減の両立が求められている。

音響開発の領域では、従来の統合的な騒音評価に加え、車両部位ごとの影響を分離して解析するアプローチが重要になりつつある。特にエンジン音のような広帯域かつ高音圧の音源と異なり、タイヤ音は発生メカニズム毎に周波数帯域が限定的であり、その発生機構も複雑であるため、高精度かつ詳細なシミュレーション手法が不可欠である。

・シミュレーションの3段階レベル

最先端のドライビングシミュレーターにおけるタイヤ音シミュレーションは、成熟度と適用目的に応じて3つのレベルに分類できる。

  • Level 1:車内の計測音を信号処理して用いる
    実車から取得した計測音を信号処理し、そのままシミュレーションに適用する方式。迅速に適用可能だが、実測データへの依存度が高く、設計へ反映しにくい。
  • Level 2:部位からの伝達関数を用いる
    車両部位の伝達関数を測定し、音源と伝達特性を分離して扱う方法。設計パラメータ変更の影響や要因分析が可能となり、工学的な知見を抽出しやすい。
  • Level 3:CAEモデルのデータを用いる
    構造・音響を含むCAEモデルを構築し、解析データを直接利用する手法。物理ベースかつ高精度だが、計算コストやモデリング工数が大きい。

・タイヤ音の分類と評価指針

さらにタイヤ音は、その発生メカニズムに基づき以下の3種類に大別される。

  1. タイヤ気柱共鳴音
  • 目的:共鳴発生条件と共鳴周波数特性の抽出
  • 手法:時間領域での伝達特性のモデル化
  • 背景:空洞共鳴の励起メカニズムと路面入力タイミング

2. ロードノイズ

  • 目的:タイヤ構造差異による一次共振モード・その他モードの車内音影響の評価
  • 手法:複数路面条件におけるロードノイズ入力特性の評価
  • 背景:構造共振解析および路面入力メカニズムの相互作用

3. パターンノイズ

  • 目的:接地形状・トレッドパターン設計によるピッチハーモニック評価
  • 手法:平滑路走行時の速度変化条件下での応答解析
  • 背景:ブロック剛性、コンパウンド特性、リブ構造によるホーン効果

展望

「3つのシミュレーションレベル」と「3種類のタイヤ音分類」を組み合わせることで、評価目的・解析手法・工学的背景を体系化できる。これにより、

  • 心理音響学的アプローチ(トーン聴感)を踏まえた空洞共鳴抑制に向けた内部構造最適化
  • ロードノイズ低減を目指した構造設計指針の抽出
  • パターンノイズ制御のためのトレッド設計・材料選定

といった設計上の指針を導き出すことが可能となる。

したがって、ドライビングシミュレーターを用いたタイヤ音シミュレーションは単なる評価手段にとどまらず、快適性向上と開発効率化の両立に寄与する戦略的ツールとして、自動車開発における重要性をますます高めていくと考えられる。

Yokohama Institute of Acoustics
EVサウンドデザインサウンドデザインタイヤ音ドライビングシミュレーター音質評価